昔、食物繊維は体に必要なものだと思われていました。
しかし、近年、便秘予防をはじめとする整腸効果だけではなく、血糖値上昇の抑制や血中コレステロール低下作用など、たくさんの生理機能が明らかになっています。
今では食物繊維は「第6の栄養素」とよばれるほど、欠かせない栄養素となっています。
2022年7月、デューク大学(米国)の研究グループがMicrobiome誌に発表した食物繊維の種類とその効果について報告していたのでご紹介します。
そもそも食物繊維とは?
食物繊維は「ヒトの消化酵素で分解されない食物中の総体」と定義され、水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維の2種類に大別されます。
水溶性食物繊維には果物や野菜に含まれるペクチン、コンブやワカメなどに含まれるヌルヌル成分のアルギン酸などがあります。
不溶性食物繊維には、植物の細胞壁を構成しているセルロースやヘミセルロース、リグニンなどがあり、カニやエビの殻に含まれるキチンも不溶性食物繊維に分類されます。
食物繊維は代謝や免疫にも関与
食物繊維は便通をよくする栄養素として広く認知されています。
その一方で、食物繊維は腸内細菌叢の構成にも大きな影響を与えています。
食物繊維が腸の中まで届くと、大腸細胞の主な栄養源となる短鎖脂肪酸が産生されます。
例えば、脂肪酸は代謝や免疫防御など重要な機能の調節にも関わっていることが明らかとなっています。
食物繊維といっても様々な種類の食物繊維があり、どの食物繊維が腸内細菌に対して優れているのか、今まで明らかになっていませんでした。
そこで、研究グループは広く使用されている3種類の粉末タイプの食物繊維サプリメントを用いて、腸内細菌叢に与える影響について調べました。
研究に使用したのは(1)イヌリン(チコリの根や菊芋から抽出される水溶性食物繊維)、(2)デキストリン(小麦やトウモロコシなどのデンプンから作られる水溶性食物繊維、(3)ガラクトオリゴ糖(牛乳などに含まれる水溶性食物繊維)の3種類になります。
健康な参加者の28人には、それぞれイヌリンとデキストリンを9g/日、ガラクトオリゴ糖を3.6g/日、それぞれ1週間ずつ摂ってもらいました。
また、あるサプリメント1週間摂取してから別のサプリメントを摂取する前には1週間の間隔が設けられました。
良い影響与えるが優れたものはなかった
腸内細菌叢を調べた結果、3種類のサプリメントの中で、優れた影響を与えるサプリメントはなかったことが明らかになりました。
しかし、どのサプリメントも短鎖脂肪酸の一種である酪酸の産生量を増加させていたとのこと。
酪酸は腸壁のバリアー機能を高めて、病原体の侵入を防いだり、炎症抑制に重要な働きを担うと考えられています。
サプリメントの種類によって違いは認められませんでしたが、その人の食生活に焦点を合わせると違いが認められています。
日常の食事で食物繊維が豊富な食品をほとんど食べていない参加者では酪酸の産生量がより増加していたことが認められました。
この結果について、研究グループの一人は、「日常的に食物繊維を多く摂っていた参加者では、どのサプリメントを摂っても腸内細菌叢の変化が見られなかった。おそらく、これらの参加者はすでに腸内細菌叢のバランスが最適に保たれていたことが考えられる。」
「一方で食物繊維の摂取量が少ない参加者では、摂取したサプリメントの種類に関係なく、サプリメントにより酪酸の産生量の増加に対する影響が最も大きかったのだろう」と述べています。
日本人の食物繊維の摂取量は少ない
米国では1日当たり女性で25g、男性で38gの食物繊維を摂ることが推奨されています。
しかし、平均的な米国成人の食物繊維摂取量はその30%程度、ほとんどの米国人は食物繊維が不足しているそうです。
これは日本人にも当てはまり、60歳以上の男女を除くほとんど人は食物繊維が不足しており、特に20代の男女は深刻な状況にあります。
参考)
Microbiome. 2022 07 29;10(1);114.
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
この研究は水溶性食物繊維を対象としたもので、不溶性食物繊維については検証していないのが残念です。
本来、食物繊維を摂るならサプリメントよりも食品から摂った方が、食物繊維だけではなく、ビタミンやミネラル、さらに健康に良いとされるポリフェノールやカルテノイドなどフィトケミカルも摂ることができます。
しかし、積極的に食品から摂ることは難しいこともあり、摂取源にこだわらずできる限りたくさんの食物繊維を摂ることを考えるとサプリメントの利用もよいかもしれません。
- このコラムで紹介した情報は、一般的な知識のみを目的としたものであり、栄養素の効果・効能を保証するものではありません。
- 専門的な医学的アドバイスや特定の病状に対する治療の代わりとはなりません。