出ました。恐ろしく面倒くさい題名です。まるでナゾナゾみたいでしょ?この難解な日本語を読み解くのには、活性酸素について少し予備知識が要ります。ちょっと長くなりますが、まずはその予備知識からお話ししましょう。
活性酸素が病原体を撃退?
前回お話しした“抗酸化作用”のなかでフリーラジカル≒活性酸素のことを説明しました。
そのとき意図的にお話しなかったことがあります。
活性酸素は猛毒であるといいましたが、わたしたちの免疫システムはこの猛毒を利用しているということです。
わたしたちは外部から侵入してきた病原体や異物を、活性酸素を使って撃退しているのです。
例えば、わたしたちの免疫システムで最もよく知られているのは白血球でしょう。
白血球はわたしたちの身体に病原体が侵入してきた時に起きる炎症に反応して、侵入現場に急行してその病原体と戦います。
なかでも好中球という白血球は、病原体に自分の細胞内に蓄えておいた活性酸素を浴びせかけてそれを殺します。
こうしてわたしたちの健康は維持されているのです。
活性酸素が悪さをする仕組み
ところがこのとき、免疫システムは周囲の健全な細胞にも武器である活性酸素を撃ち込んでしまうのです。
この流れ弾被害のひとつの典型が、アスベストによる肺がん発生のメカニズムです。
まず、アスベストが吸い込まれて肺に付着します。これは生体にとって異物の侵入ですから、免疫システムが発動し、好中球などのいわゆる貪食細胞が異物の侵入現場に集まります。
現場に集合した貪食細胞は病原体と同じように、アスベストに活性酸素を浴びせて殺そうとします。
ところがアスベストは無機物なので、活性酸素でダメージを受けないのです。
侵入してきた異物を撃退できない免疫システムは、狂ったように活性酸素をアスベストに浴びせ続けます。
当然、活性酸素を浴び続けるのはアスベストだけではありません。
その周囲の正常細胞も活性酸素を浴び続け、やがて代謝異常を起こして、がん化するのです。
3種類の活性酸素
予備知識の話が長くなりましたが、もうちょっとだけお付き合いください。
いままで、活性酸素をひとくくりにお話してきましたが、活性酸素には3種類あります。ヒドロキシラジカル・スーパーオキシド・過酸化水素の3種です。
これらのうちスーパーオキシドと過酸化水素はわたしたちの細胞内にあるSOD(スーパー・オキシド・ディスミュターゼ)とカタラーゼという酵素が分解できます。
ヒドロキシラジカルは3種の活性酸素の中で最も“反応性が高い”ものであり、わたしたちの細胞にとって一番危険なものなのですが、わたしたちの生体内にはヒドロキシラジカルを分解できる酵素が存在しません。
さらに、先ほど生体内で分解できると説明したヒドロキシラジカル以外の2つの活性酸素も鉄分と反応するとヒドロキシラジカルに変化してしまいます。
ヒドロキシラジカルが悪さをする仕組み
ヒドロキシラジカルはわたしたちの細胞膜の主成分である脂質から電子を奪って脂質ラジカルに変え、脂質ラジカルは酸素と結合することで過酸化脂質に変わってしまいます。
そしてこの過酸化脂質はほかの脂質やタンパクを酸化させるという連鎖的脂質過酸化反応というスパイラルを起こしてしまうのです。
このスパイラルが放置されていると、やがて細胞膜に変質をきたして細胞は死んでしまうか、細胞内の核酸を傷つけて代謝異常を惹き起こしてがん化の引鉄が引かれます。
ビタミンCの抗酸化作用とは
ここでやっとビタミンCが登場してまいります。
ここからがナゾナゾみたいな本日のお題の答えです。
ビタミンCはこのヒドロキシラジカルに電子を渡して無毒化します。
また脂質ラジカルにも電子を渡して還元し、連鎖的脂質過酸化反応のスパイラルをくいとめます。
これがビタミンCの『抗酸化作用』ということです。
抗酸化作用の後のビタミンCは?
ビタミンCは抗酸化物質としての仕事をすると、自分はアスコルビル・ラジカルというフリーラジカルに変わります。
このアスコルビル・ラジカルは例外的に安定的なフリーラジカルで、アスコルビル・ラジカル同士は惹かれ合う(共鳴構造)のですが、ほかの分子から電子を奪うことはしません。
そして、共鳴構造によってふたつ揃うと、一方が他方を還元してアスコルビン酸(還元型ビタミンC)に再生します。
かたや不対電子をふたつとも失ったアスコルビル・ラジカルはデヒドロアスコルビン酸(酸化型ビタミンC)となります。
実は酸化型ビタミンCになってくれた方が、わたしたちの細胞はビタミンCを取り入れやすくなるのです。
そして細胞内にはビタミンC還元酵素があるので細胞内に入った酸化型ビタミンCは還元型ビタミンCに再生されて、抗酸化物質としての働きを再び始めるのです。
どうです?見事に可逆っちゃったでしょ?
ぐるぐる回って元に戻っちゃったでしょ?
これがナゾナゾの答えでした。
還元型ビタミンCは抗酸化物質としての仕事をすると自分が酸化されてフリーラジカルになり、フリーラジカルになったビタミンC同士が集まるとお互いが酸化還元し、そこでさらに酸化されたビタミンCは酵素によって還元されて還元型ビタミンCに戻るというスパイラルを描くということです。
大事なところだから、二度言いました。
試験に出ます。あはは
このビタミンCの酸化還元サイクルから外れて、細胞内に入れなかった酸化型ビタミンCは最後にシュウ酸とスレオニンという物質に分解されて尿中に排泄されていきます。
どうでしたか?おわかりいただけましたか?ビタミンCの可逆的な酸化還元系の構成と酸化還元作用のお話でした。
ではまた次回
コメント
[…] シリーズ3回目は「Vol3.可逆的な酸化還元系の構成と酸化還元作用」。 活性酸素が悪さをする仕組みと、ビタミンCがそれを無力化する仕組みをお話しします。 […]